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「黄金のデュオ」による演奏で、バイオリンとピアノの良さを改めて実感

ミューザ川崎シンフォニーホール(神奈川県川崎市)にて開催された、バイオリニストの矢部達哉さんとピアニストの横山幸雄さんによるデュオ・リサイタルに行ってきました。
当日の曲目は、ベートーヴェン「バイオリンソナタ『クロイツェル』」「ピアノソナタ『熱情』」、休憩をはさんで、シューベルト「即興曲D.899より第3曲」、ショパン「華麗なる大円舞曲」、フランク「バイオリンソナタ イ長調」でした。クロイツェル・ソナタとフランクのソナタがピアノとバイオリンによるデュオで、他はピアノソロです。アンコールにはフォーレ「夢のあとに」、ドビュッシー「前奏曲第2集より第6曲『風変わりなラヴィーヌ将軍』」、マスネ「タイスの瞑想曲」が演奏されました。
以下、リサイタルで感じたことをあげておきます。

矢部さんと横山さんがデュオを初めてデュオを組んだのは20年ほど前で、それ以来たびたび共演しています。それだけにお二人の演奏には単に「息が合う」という次元を超えたものがありました。お互いの持ち味を引き出し、うまく組み合わせながら演奏しているような感じです。矢部さんの伸びやかで透明感のある音と、横山さんのじっくりとしていて深みのある音が巧みに合わさって、まさしく「黄金のデュオ」と呼ばれるにふさわしい世界を築き上げていたように思います。
当日の演奏の中では特に、フランクのバイオリンソナタと、アンコールで演奏した「夢のあとに」、「タイスの瞑想曲」が秀逸でした。

演奏の合間にはお二人によるトークが繰り広げられました。トークには漫才やコントを思わせるようなところも感じられ、付き合いの長さや深さがよく表れていました。
特に印象に残ったのは、矢部さんの「いぶし銀」という発言です。「黄金のデュオ」に引っ掛けた言葉で、年月が経てばやがていぶし銀のように深みや渋みのある演奏になる、といった意味合いが込められていると私は理解しました。
お二人とも40代後半、演奏者としては一番脂が乗っている時期なので、老け込むにはまだ早すぎるような気もしますが―。ともあれ、年月を重ねるにつれてどのように演奏を深めていくかが楽しみです。今後も時折お二人のデュオを聴きに行ってみたいと思いました。

横山さんのピアノソロで特によかったのは、シューベルトの即興曲です。ライブで何回か聞いたことがある中で、今回の演奏が一番よかったと思います。演奏した曲は低音のアルペジオ(分散和音)の上に高音の歌うような旋律がのっているのが特徴ですが、低音の力強さが勝ちすぎてしまうことがなく、高音とのバランスが取れていて、曲の特徴が十分生きていました。

振り返ってみると、バイオリンとピアノによるデュオは、これまでライブでほとんど聴いたことがありませんでした。でも今回のリサイタルでバイオリンの良さ、そしてピアノとのハーモニーやコラボレーションのすばらしさを改めて実感できたような気がします。